「一帯一路」カンボジア沿岸巨大開発 C4ADS報告より

<違法な土地取得と中国海軍の拠点づくり>

カンボジア南部、タイ湾に面した沿岸地区で中国企業による巨大開発事業が進められている。総面積は36000ヘクタール、海岸線の長さにすると90キロに渉る沿岸部の土地(この距離はカンボジアの海岸線の20%をあたる)を中国企業が独占し、コンセッション(譲渡)方式で99年間にわたる運営権を手にした。現在は「コッコン(Koh Kong)パイロット・ゾーン(試験区)」として、深水港の建設が進められ、将来的には国際空港や医療センター、コンドミニアムやホテル、ゴルフ場などのリゾート施設、30kwの熱水発電所、貯水池として2つの人造湖などのインフラを整備し、製造業をはじめ医療や文化、観光の拠点にしようというもので、初期投資だけでも総額120億ドルという壮大なプロジェクトだ。土地のリース契約は2008年5月に調印され、一部の工事が始まっていた。その後2016年に、フン・セン首相と習近平の間で「一帯一路」構想の重要プロジェクトの一つとして承認された。

ところで、これらの土地を入手経緯は、カンボジアの国内法に違反していると指摘されている。そもそも2001年に制定されたカンボジアの「土地法59条」では、10000ヘクタール以上の土地譲渡は禁止され、個人が複数の土地を入手する場合や、複数の法人に分かれて入手する場合もそれらの法人が同一の個人経営者に属している場合は、合計で10000ヘクタールを超える土地譲渡は禁止されている。36000ヘクタールにも及ぶ土地は、いずれにしてもこの規定の3倍以上の広さだ。

さらに契約の主体についても問題が指摘されている。最初に土地リースの契約が調印された2008年5月の時点では、契約の主体は、カンボジア人を経営トップとしたカンボジア企業(Union Development Group Co., Ltd)だった。しかし、この企業はもともと設立時には外国企業として登録され、リース契約の一年前2007年6月にカンボジア人経営者に変更したと修正申告された。しかし、契約調印から3年後の2011年、本当の経営者が明らかになった。このとき、この企業は100万ドルの株式を増資し、そのすべてを中国企業(Tianjin Union Development Co., Ltd. 天津優聯投資発展集団、以下「天津UDG」とする)が手に入れた。また、この会社のトップ(総裁)には中国人(李致選)が就任した。試験区は最初からこの天津UDGのプロジェクトだったのである。なぜなら契約調印後、天津UDGの中国人幹部が、フン・セン首相に面会し、このプロジェクトについて詳細な説明している。また、この計画とは別に水力発電ダムの建設用地として新たに9100ヘクタールの土地の貸与も約束されたと伝えられる。この土地はボトゥン・サコール国立公園のなかにあり、国立公園の土地を民間企業に譲渡するには特別許可が必要のはずだった。天津UDGの土地入手は、カンボジアの国内法に違反するだけでなく、「勅許」=超法規的措置ともいえる特別扱いを受けていたのだ。

一方、中国企業によるカンボジアでの巨大開発事業には、中国共産党のバックアップ、支援も受けていた。天津UDGによる120億ドルのプロジェクトは、当時、天津市の党書記で、現在は「“一帯一路”推進・建設工作指導小組」の議長を務めている張高麗の強力な支持があった。また「一帯一路」構想が発表される前の2013年には、中国政府代表団が計画の予定地を公式に視察したほか、「試験区」として承認された2015年以降には、中国政府や中国共産党のハイレベルの代表団が少なくとも7回、プロジェクトの現地やUDG本社を訪れている。そのうち3回は中国共産党統一戦線工作部(中共の海外工作を担う機関)、2回は政治協商会議(おなじく統一戦線工作を担う)のメンバーからなる視察団だった。

<タイ南部クラ峡谷に計画される運河を狙う>

中国がなぜカンボジア南部で行われる巨大開発プロジェクトにこれほど関心を注ぐのかには理由がある。地図をみれば分かるが、開発事業が行われるカンボジア南部のこの位置は、タイ南部、マレーシア半島の幅がもっとも狭くなっている「クラ地峡(峡谷)」の真東、距離にして400キロの地点にあたる。クラ峡谷は幅が44キロで、ここに運河を通せば、アンダマン海から直接タイ湾、そして南シナ海へ抜けられ、狭いマラッカ海峡を通るより1200キロも航路を短縮できる。運河計画は古くは17世紀ごろから何度ももち上がっては消えていったが、最近では「タイ中国産業促進協会」という組織がタイ運河計画の計画書を発表し、これにはタイ政界の実力者のほか、後援企業として中国企業も名を連ねているという。

共同通信配信記事「幻の「東洋のパナマ運河」再浮上 中国とタイ、水面下で巨大プロジェクト」SankeiBiz 2016/8/23


オーストラリア国立大学のGeoff Wade 教授は、カンボジアのコッコンに作られる新しい港には、中国のフリゲート艦や駆逐艦が停泊できる十分なスペースがあり、パイロットゾーン(試験区)のなかに病院やリクレーション施設ができれば、中国人民解放軍の水兵たちの利用も可能になる。ここが中国海軍の停泊・補給基地になることは十分にあり得るとみている。

有事にマラッカ海峡が閉鎖されたら、中国は原油輸入がストップしエネルギー供給の大部分が停止する、いわゆる「マラッカ・ジレンマ」と呼ばれる課題を抱えている。クラ地峡に運河が開通し、その運営権を中国が握ったとしたら、マラッカ・ジレンマの問題は一挙に解決し、これまでのマラッカ海峡経由より、船舶の航行は3日間短くて済む、経済効率ははるかに高まる。それだけでなく、中国海軍の艦船がこの運河を通って、直接インド洋に出られるとしたら、中国軍のインド太平洋海域全体に対する迅速な機動力と、通常の監視警戒能力は格段に高まることになる。

タイ駐在の中国大使は、この「タイ運河計画」を一帯一路プロジェクトのなかに取り込むことを提案していると言われる

<環境破壊や汚染、住民移転に伴う人権侵害が懸念>

36000ヘクタールの土地取得費は、2008年の契約時に100万ドルを支払ったのち、10年間の支払い猶予期間があり、2018年から再び毎年100万ドルを支払い、この金額は5年ごとに20万ドルづつ増加することになっているという。要するに、中国企業は1ヘクタールあたり年間たったの30ドルで手に入れたことになる。しかし、それによってカンボジアが失ったものは、国内の海岸線の20%にあたる沿岸部での漁業であり、移転を迫られた漁民や農民の暮らしだ。すでに2009年以来1000戸以上の家族が強制的に移転させられたが、当初、中国企業が約束していた補償金の支払いは実行されてないという。また漁業で生計を立ててきた人たちは、海を奪われると生活ができず、移転先での生活が再建できず、提供された住宅を出る人も多いという。また移転を拒否して土地にしがみつく家族に対しては、家や家財道具が焼かれるなど嫌がらせを受け、強制的に立ち退きが迫られている。46の家族がUDGの土地に残っていたが、2018年1月、会社の代表が警備員や軍人を連れてきて、住民の家を破壊したり畑の作物を踏み潰したりの人権侵害を行った。

パイロット・ゾーンの多くがボトゥム・サコール国立公園のなかに含まれているが、ここはカンボジアのなかでもっとも生物多様性が保たれている湿地帯や森林として知られている。今後の開発で、森林が伐採され、海や湖沼の汚染が進み、環境問題が深刻化することも懸念されている。

ところで、「爆買い」で中国人が所有する北海道の土地を合計すると甲子園1万8000個分、7万ヘクタールに達するという。これは淡路島一個分に相当する面積だ。カンボジアの2倍、かつカンボジアは99年間リースという期限付きだが、北海道の場合は永久に権利を主張できる。土地の爆買いは”武器を持たない戦争であり、目に見えない戦争だ“といわれる。すでに土地戦争では中国は連戦連勝、日本は完全に負けている。

周縁から中国を覗く

拡張覇権主義のチャイナの姿をその周縁部から覗いてみる。そこには抑圧された民族、消滅させられていく文化や歴史が垣間見える。

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