ウイグル人ジェノサイドの隠せない「統計」証拠
米国のブリンケン国務長官は、トランプ前政権と同様に、中国が新疆ウイグル自治区で行なっている人権侵害をジェノサイドgenocide だと認定した。これに対して、日本の外務省担当者は1月26日、自民党の外交部会で、日本としてジェノサイドとしては認めていないとの認識を示したと毎日新聞が伝えた。茂木外相も29日の記者会見で、米国がジェノサイドだという認識について、日本政府としての立場を問われたのに対し、「新疆ウイグル自治区に関しては、重大な人権侵害が行なわれているという報告が数多く出されている」とはしたものの、結局、最後までジェノサイドだとは認めなかった。
こうした日本政府の態度について、日本ウイグル協会は1月29日、声明を出し、「アメリカ政府がとった歴史的な判断に対して、世界に先駆けて日本政府が異議を唱えることになり、中国政府による民族大量虐殺と人道に対する罪を容認するかのような誤った印象を与えかねない」と指摘した。
日本政府が新疆ウイグル自治区でのウイグル人に対する迫害を、ジェノサイドだと認める、認めない、に関係なく、間違いなくジェノサイドであるという事実を示す具体的データが、中国政府自身が発表した公式統計数字の中に見ることが出来る。
つまり、中国政府自らが否定することができないジェノサイドの証拠を残しているのである。それは、世界中の誰もが目にすることができる中国統計年鑑の人口統計で、ここ数年の数字を並べて比較するだけで、一目瞭然、ジェノサイドの実態がわかる。
新疆ウイグル自治区の少数民族人口は、2000年と2010年の「人口普査」(センサス・日本の国勢調査に当たる)を経て、2017年まで右肩上がりで人口は増え続けてきた。しかし、それ以降、少数民族人口は急減している。2017年の総人口は2444万6900人、うち少数民族人口は1654万4800人で、少数民族の割合は67.68%。ところが2019年になると、総人口は2523万2200人で、この2年間で78万人増えた一方、少数民族人口は1489万9400人で164万人減り、その比率も59.05%となって8.63%も急減している。
<国家統計局中国統計年鑑各年別>http://www.stats.gov.cn/tjsj/ndsj/
新疆ウイグル自治区の少数民族人口にはウイグル人のほか、カザフ人、タジク人、モンゴル人なども含まれる。新疆ウイグル自治区統計局の2019年統計年鑑、民族別人口数によると、ウイグル人は2017年には1165万5000人、2018年には1167万8600人だった。2019年以降の少数民族別の人口統計はない。
ところが、2020年にはウイグル人の人口は721人だと説明する公式文書がある。中国の紙幣には、1角の少額紙幣から10元札まで少数民族の肖像画がデザインされている。その説明文「人民幣上の民族紹介」という文書には、2元札に印刷されているのは彝(イ)族と維吾尓族(ウイグル人)とした上で、「ウイグル人の人口は721万、主な分布地域は新疆と湖南」だとしている。2018年の1167万人から2000年の721万人へ、この間に、440万人あまりのウイグル人はどこに消えたのか?
<清水ともみ『命がけの証言』(ワック2021年1月)193ページ>
そればかりではない。中国統計年鑑で「出生率(人口1000人あたりの出生数)」と「自然増減率(出生率-死亡率)」を見ると明らかな異常が見て取れる。出生率は2017年15・88、2018年10・69、2019年8・14と減少している。この間、死亡率は4・48→ 4・56→ 4・45なので大きな変動はないが、自然増減率は11・4→ 6・13→ 3・69へと急落している。
中国で同じく文化的・宗教的迫害が受けているチベット人やモンゴル人と比較してみても、同じ2017年から2019年の間に、チベット自治区での少数民族人口は6万7100人、内モンゴル自治区では同じく8万3400人それぞれ増えている。また出生率はチベットで16・00→14・6へ 内モンゴルでは9・47→8・23へ、自然増減率もチベットで11・05→10・14へ、モンゴルで3・73→2・57へと、多少減少しているが、新疆ウイグル自治区ほどの激しい落ち込みではない。
新疆ウイグル自治区での出生率、自然増減率の急減を裏付ける別の統計数字もある。「一人っ子政策」という極端な人口抑制計画のなごりもあって、不妊手術を受けた件数や各種避妊措置を行なっている実態を調べた統計があった。『2019新疆統計年鑑』のなかの「各地、州、市採取各種避孕措施情況」によると、
「女性絶育」つまり卵管を縛る手術を受けた女性が8万8533人、「男性絶育」つまり輸精管を縛る手術を受けた男性が266人とあり、そのほか「宮内節育器」(IDU装着)が203679人、「皮下埋植」(皮下に薬か何かを埋め込む手術?)など何らかの手術を受けた人が合計29万2827人。そのほか「口服薬及び注射針」が17547人、「避孕套」(コンドーム)588679人、「外用薬」が11741人などとなっている。
こんな質問にいちいち答えなければならないというだけで、西洋諸国ではプライバシーの侵害として問題になるはずだが、こうした不妊手術や避妊方法の実態をみるだけでも、夫婦の性生活さえも、国家が介入し、コントロールが及んでいる実態を明らかにしている。
なぜ、そこまでする必要があるのか?ウイグル人を絶滅させようという意図があるのは明らかだろう。あらゆる統計数値が示すように、新疆ウイグル自治区でも人口動態に異常が見られるようなったのは、陳全国が自治区の党書記に就任した2016年以降であることは明らかで、彼の登場によってウイグル民族絶滅計画が始動したということは、中国国家統計局の紛れもない公式統計数字からも明らかなのである。
残念ながら、この「各種避孕措施情況」のデータは、新疆ウイグル自治区統計局の統計年鑑でしか見つけることができず、チベットやモンゴルの実態とは比較できなかった。
ところが、北京発2月5日づけの時事通信の記事「新疆で不妊手術急増=ウイグル族迫害の一端か」によると、「中国衛生健康統計年鑑」という別の統計数字があり、全国のなかでウイグル人に対するだけの過剰・異常な対応が浮かびあがる。それによると、「新疆ウイグル自治区で行われた卵管を縛る手術は、2014年から18年の間に3139件から5万9499件と19倍に増え、輸精管を縛る手術も75件から941件と12倍増。最も件数の多い子宮内避妊器具(IUD)の装着は20万件から33万件に増えた」という。「18年の同自治区の人口は2486万人(うちウイグル族は1271万人)。中国の人口に占める割合は2%弱だが、卵管手術件数は全国の15%、IUD装着は9%を占めた」という。
女性の卵管手術が14年から18年にかけて19倍に増え、全国の15%を占めるという新疆ウイグル自治区での手術数は、出生率の急激な低下を裏付ける動かしがたい証拠で、これが民族絶滅計画でないというなら、ほかにどう説明するというのか。人類の歴史にとって断じて許してはならない暴挙で、神をも恐れぬ悪辣きわまりない行為と言わざるを得ない。
英国公共放送BBCは2月3日、新疆ウイグル自治区の強制収容所で、ウイグル人女性らが、組織的なレイプ被害を受けたと証言する番組を放送した。新疆ウイグル自治区の収容施設では、ウイグル人など100万人以上が拘束されていると推測されているが、 BBCは収容施設で警官や警備員らから組織的にレイプや性的虐待をされたとする女性収容者たちの生の証言を報じた。
収容施設から解放された後、アメリカに渡ったトゥルスネイ・ジアウドゥンさんは、収容施設では「毎晩」女性たちが連れ出され、覆面をした中国人の男にレイプされていたと話した。彼女自身も、拷問を受け、2~3人の男たちに集団レイプされたことが3度あったという。またカザフ人で新疆出身のグルジラ・アウエルカーンさんは、収容施設に1年半入れられた。収容中、ウイグル人の女性たちの服を脱がせ、手錠をはめることを強いられた。女性たちは、中国人の男らがいる部屋に置き去りにされたという。 「(男たちは)かわいくて若い収容者を選ぶために金を払っていた」、「男たちは私に、彼女たちの服を脱がせて手を動かせないようにした後、部屋を出るよう命じた」と証言している。
清水ともみさんが描いた『命がけの証言』も、やさしい絵柄とは対照的に、凄まじい内容の本である。それこそ、新疆ウイグル自治区の強制収容所から命からがら脱出し、世界に収容所の実情を知らせるため、実名を出しての、まさに命がけの証言となっている。以下は、そのなかの一人、カザフ人女性のセイラグリ・サウトバイ(Sayragul Sauytbay)さんの証言である
(以下引用)「警官たちがかわいい女の子を選び、どこかへ連れて行くのは毎晩のことでした。彼女たちは一晩中帰ってはきません。警官には無限の力がありました。ある日、きょうは再教育が成功したか、適切に渉っているかどうか確認すると言い出し、二百人の男女の前で、一人の女性に、皆の前で自分の罪を告白しろと命じました」(中略)。「(告白のあと)服を脱げと命じ、警官らは次々と彼女に襲いかかりました。そしてその間、私たちがそれを見て、どのように反応しているかを確認していました。顔を背けたり目を閉じたり、怒りやショックを表わした人は連れ去られ、二度と姿を見ることはありませんでした」(同書125~200ページ 引用終わり)。
実際の漫画の表現は抑制された淡々とした表現だが、そこにはまさに現代の地獄絵図の世界が描かれている。こんなことが、21世紀の私たちの同時代の地球上で許されることがあっていいのだろうか?
英国のBBCが、ウイグル人が抱えるこうした過酷な情況を国際社会に告発し、欧米社会を突き動かそうとしているのに、同じ公共放送として日本のNHKはなぜ取り上げることができないのか?ほとんど一介の主婦に過ぎなかった清水ともみさんが、テレビに映った「ウイグル農民の悲しげな表情」というほんの小さな疑問からウイグル問題に取り組み、自分が出来ることは何かと考え、少しでもウイグルの実情を伝えることができればと、ツィッター上で作品を発表を始めたことが、この本ができるきっかけとなっている。日本の外務省が声を上げられないのなら、日本国民が声をあげ、こうした現実を世界に知らしめるべきかもしれない。
言っても無駄かも知れないが、同じ中国の隣国である韓国の人々は、北朝鮮の人権状況にも、中国の人権問題にも極めて無関心で、文在寅大統領をはじめ「人権派」を気取る韓国政界や女性運動団体、人権グループからは、ウイグル問題や中国の人権問題についての発言は、ひと言も聞いたことがない。その代わり、嘘にまみれた過去の慰安婦問題には耳を聾するほどの騒音でまくし立て、ハーバード大学教授の「慰安婦は契約した売春婦」という論文が発表されるや、ハーバード大学総長や出版社編集部にまで大量の抗議メールを送りつけ、学問の自由、言論出版の自由を公然と踏みにじる行為に恥じることもないのである。
<KBS日本語放送21/2/8「ハーバード大教授が論文で「慰安婦は売春婦」 韓国市民団体が抗議」>
韓国では、慰安婦問題に固執するあまり、性犯罪に対する感覚が麻痺しているのか、政治家によるセクハラ事件があとを立たないし、ネット上では女性に対する性暴力事件が頻発している。韓国で誰も文句を言えない慰安婦支援団体だと自認する「正義記憶連帯」が、現在進行形の北朝鮮の女性の人権侵害やウイグル女性たちのまさに現代の性奴隷の実態に目をつむって何も言わないのは何故なのか。不思議でならない。
文句ついでに、もう一つ、言っておきたい。信じられないのは、イスラム教徒であるウイグル人に対するイスラム国家の対応である。中国に対し、この問題で、明確な抗議や外交的な対応をとったイスラム国は皆無だ。とりわけ、トルコのエルドアン大統領は、新型コロナ対策でいち早く中国製のワクチンを導入している。「エルドアン政権はウイグル人を金で中国に売り渡した」と非難されるほどで、トルコ国内に潜入した亡命ウイグル人数百人を中国に送還したとも言われる。さらに今回、中国製ワクチンの導入にあたり、中国と身柄引き渡し協定を結んだとさえ噂されている。
<NEWSWEEK誌2/5「ウイグル弾圧の影がちらつく中国の「ワクチン外交」>
イスラム国の指導者たちはもっと、アラーの神の声を聞いて、中国とどう向きあうべきか、考えたほうがいい。
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